(1906年12月6日 東京朝日新聞)
(5日・ロイター電報)
米国大統領は、教書(年次教書)において、日本人排斥問題について鋭く言及し、アメリカ人が日本人に対して不当な扱いをすることを厳しく非難した。そして、憲法を改正して、大統領に対し、各州が外国人の条約上の権利を完全に保障するよう強制する権限を与えるべきであると論じ、さらに自ら、日本人問題については、文武あらゆる力を用いて対処する決意であると宣言した。
また大統領は、プリビロフ諸島におけるオットセイの乱獲・惨殺問題についても言及し、この件については現在、イギリスおよび日本の両国と交渉が進行中であると述べた。そして、もしこの残忍で恐るべき外洋でのオットセイ猟が今後も続けられるのであれば、アメリカはむしろ最も「慈悲深い方法」をもって、オットセイの全群を一挙に屠り尽くさなければならなくなるだろう、と述べた。
この記事は、1906年前後のアメリカ外交・人種問題・自然保護思想を一体として伝える、非常に象徴的な報道です。
◾️ 日本人排斥問題とルーズベルト大統領
当時の米国大統領は セオドア・ルーズベルト でした。
1900年代初頭のアメリカ西海岸、とくにカリフォルニアでは、
- 日本人移民の増加
- 学校での日本人生徒隔離問題
- 労働市場での競争
などを背景に、激しい 反日・排日運動 が起きていました。
ルーズベルトは基本的に、
- 日本を列強として尊重する外交姿勢
- 条約による外国人の権利保障
を重視しており、記事にあるように、州政府による日本人差別を連邦政府が是正すべきだと主張しました。
「憲法改正」にまで言及している点は、彼の強い危機感を示しています。
◾️ 「文武の力を用いる」発言の意味
「所有文武の力を用ふべし」とは、
- 外交(文)
- 軍事・強制力(武)
の両面で、条約違反や差別を許さない姿勢を示したものです。
これは、日本に対する友好的態度であると同時に、アメリカの連邦主義の限界(州の差別行為を止められない問題)を国内に向けて訴える政治的発言でもありました。
◾️ 膃肭臍(オットセイ)乱獲問題
「膃肭臍(おっとせい)」とは、毛皮目的で狩猟された オットセイ(fur seal) のことです。
- プリビロフ諸島(ベーリング海)周辺では
- 米・英(カナダ)・日本の船が
- 公海上で大量捕獲を行い
個体数の激減が深刻な国際問題となっていました。
◾️ 「慈悲深く全群を屠る」という逆説
大統領の発言は一見すると残酷ですが、これは当時の自然保護論でよく用いられた逆説的表現です。
意味としては、
- 無秩序な外洋猟を続ければ
- 種全体が苦しみながら絶滅する
- それならば管理の下で完全に処分する方が「人道的」
という、保護と絶滅が紙一重だった時代の論理を示しています。
実際にはその後、
- 外洋猟の禁止
- 国際的な管理
へと進み、1911年の「北太平洋オットセイ条約」につながっていきます。
◾️ 日本との関係
日本は日露戦争後、列強の一員として太平洋問題に深く関与する立場となっており、
- 排日問題では被差別国
- オットセイ問題では乱獲国の一つ
という、矛盾した立場にありました。
この記事は、そうした日本の国際的立場の複雑さを、同時に映し出しています。
◾️ 総括
この記事は、
- 米国の人種差別問題
- 連邦と州の対立
- 初期の国際自然保護外交
- 日米関係の緊張と協調
が一つの教書の中で語られていることを伝えています。
「人道的正義」という見出しは、理想を掲げながらも、なお矛盾と強権を孕んだ 20世紀初頭の国際秩序 を象徴する、皮肉を含んだ表現と言えるでしょう。

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