1907年12月16日 日本癌腫研究会

1907年

(1907年12月16日・時事新報)
 悪性腫瘍の中でも、特に治療が難しい病気である癌については、当時、外科手術を除けばほとんど治療方法がないと考えられていた。ヨーロッパ諸国では、すでに癌について専門的に研究する研究会が設立されている。
 しかし、日本ではまだこのような研究会は設立されていなかった。
 ところが先ごろ、ドイツの中央癌腫研究会から、日本にも国際的な癌研究の組織を設立するよう呼びかけがあった。これを受けて、日本の病理学・病理解剖学の研究者、内科医、外科医などが、それぞれ協力して研究会設立の準備を進めてきた。そして今回、ついに研究会を設立することが決まり、12月13日、日本橋の偕楽園に関係者が集まって、さまざまな協議を行ったという。

記事引用:https://dl.ndl.go.jp/pid/1920436/1/197

写真・図引用:https://www.jfcr.or.jp/about/philosophy.html

⚫︎ 日本の「癌研究会」が誕生する直前の記事

この記事は、現在の公益財団法人がん研究会(癌研)につながる組織が誕生する直前のニュースです。

実際、がん研究会は1908年(明治41年)4月2日に創立されました。日本初のがん専門機関です。

つまりこの記事は、「日本で初めて本格的ながん専門研究組織が誕生する直前」を伝えているわけです。

⚫︎ なぜ1907年に癌研究が重要になったのか

現在では癌は非常に身近な病気ですが、1907年当時は医学的にまだ分からないことが多い病気でした。

特に、

  • 癌はなぜ発生するのか
  • 癌細胞はどのように増殖するのか
  • なぜ他の臓器へ転移するのか
  • どのような治療が有効なのか

といった問題が研究対象でした。

そのため、記事にあるように、

病理学 + 病理解剖学 + 内科学 + 外科学

という複数分野の研究者が一緒になって研究する必要がありました。

⚫︎ 日本ではすでに癌研究そのものは始まっていた

「日本ではまだ研究会がない」といっても、癌研究そのものが行われていなかったわけではありません

1907年にはすでに医学雑誌『癌』が刊行されており、癌の発生部位、血管、組織発生などについて論文が発表されています。

特に重要なのが山極勝三郎です。

山極勝三郎は東京帝国大学の病理学者で、後に人工的に癌を発生させる実験で世界的に知られるようになります。

がん研究会自身の沿革でも、山極勝三郎と東京帝国大学医学部長の青山胤通が創立の中心人物だったとされています。

⚫︎ 「ドイツからの呼びかけ」が重要

この記事で特に注目したいのが、「獨逸の中央癌腫研究會より、國際的に該研究会の設立を勧誘せられ」という部分です。

つまり、日本国内だけで自然発生的に研究会を作ったというより、

ヨーロッパで始まっていた癌研究の国際的なネットワークに、日本も参加するよう呼びかけられた

ということです。

当時の日本は日露戦争に勝利した直後で、医学・科学の面でも欧米と肩を並べることを目指していました。

がん研究会自身も、1908年の創立について、ヨーロッパから国際的な癌研究への参加を呼びかけられ、それに応じて日本の研究組織が作られたと説明しています。

⚫︎ 当時の「癌治療」はどのようなものだったか

記事には、「外科的手術を除くの外、殆んど治療の途なし」とあります。

現代の感覚からするとかなり厳しい表現ですが、これは当時の医学水準を反映しています。

1907年には、現在のような

  • 抗癌剤
  • 放射線治療
  • 分子標的薬
  • 免疫療法

などは存在しません。

癌に対する主要な治療手段の一つは外科的に腫瘍を切除することでした。

だからこそ、「癌そのものを科学的に研究して、発生原因や治療法を解明しよう」という研究組織の設立には大きな意味がありました。

⚫︎ この記事の約10年後に起こる大きな変化

1907年の記事から約10年後、癌研究はさらに大きく発展します。

特に山極勝三郎らによる人工癌研究が世界的に注目されます。

山極と市川厚一は1915年、ウサギの耳にコールタールを繰り返し塗布することで、人工的に癌を発生させることに成功しました。

これは、「癌はどのような刺激によって発生するのか」という発癌研究に大きな影響を与えました。

したがって、

1907年 研究者を組織化する
1908年 癌研究会設立
1915年 山極・市川の人工癌研究

という流れで見ると、この記事の歴史的な位置がよく分かります。

⚫︎ まとめ

この記事は、日本初の本格的ながん専門研究組織が誕生する直前を報じています。

ポイントは、

  • 1907年当時、癌は非常に治療困難な病気だった。
  • ヨーロッパではすでに癌専門の研究組織が活動していた。
  • ドイツ側から日本にも国際的な癌研究組織を作るよう呼びかけがあった。
  • 日本の病理学者、内科医、外科医などが協力して設立準備を進めた。
  • 1907年12月13日に日本橋・偕楽園で設立協議を実施。
  • 1908年4月2日に癌研究会が正式に創立された。(日本癌治療学会)

一言でいえば、「欧米で始まっていた癌研究の国際的な流れに日本も加わり、日本初の癌専門研究組織が誕生しようとしている」という記事です。

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