(1906年3月17日・國民新聞)
金禄公債は今年が満期であり、近いうちに償還される予定であったが、このたび16日付の官報で、来る4月23日に全額償還することが発表された。
この償還日は、新公債の第二期払込期間の最中にあたるため、金禄公債の所有者が新公債に応募し、償還金をそのまま全額払込金に充てる場合には、新公債の払込金について80銭の割引が受けられるという利益がある。したがって応募者にとっては非常に都合がよい。
なお、今回の償還総額は 1,663万1,640円 である。
■ 「金禄公債」とは?
金禄公債(きんろくこうさい)とは、明治政府が華族・士族への家禄(給料)を廃止する代わりに支払った公債 のこと。
- 明治維新まで、武士は家禄(給与)を家格に応じて受け取っていた
- しかし明治政府は近代化のため、財政負担の大きい家禄を廃止
- その代替として 「金禄公債」=年金型の国債 を交付した
これは士族の生計を保証する代わりに、旧身分制度を完全に廃止する政策の一環でした。
■ なぜ1906年に償還が行われたのか?
金禄公債は 発行後相当期間(35年前後)で満期償還 となる設計でした。
1906年(明治39年)は明治維新(1868年)後の士族処遇政策の総仕上げとして、公債を全部償還する時期
にあたり、国家財政上の整理が行われていました。
■ この記事が意味するもの
- 政府は旧士族向けの負債をほぼ完済できるほど財政に余裕が生まれていた
日露戦争(1904-05)の戦費調達で国債発行は増えたが、
経済活況や税収増などで公債管理を前向きに進められた。 - 同時期に新公債(新しい国債)を発行している
これは主に
- 日露戦争後の国庫整理
- インフラ整備(鉄道国有化など)
のための財政措置。 - 金禄公債の償還金をそのまま新公債の購入に回すと割引がある
→ 旧士族層に「新国債を買ってもらいたい」という政府の誘導策。
→ 財政の安定と国債消化を同時に図る狙い。
■ 償還額「1,663万1,640円」は大きいのか?
当時としては非常に大きな額。1906年頃の国家歳出はおよそ5億円前後であるため、1,663万円は 国家支出の3%程度に相当。これは「維新以来の士族処遇をほぼ終結させる国家的プロジェクト」の決算と言える規模。
<まとめ>
この新聞記事は、「旧士族に交付した金禄公債が満期となり、政府が大規模な償還を行う」というニュースを伝えています。
背景には、
- 明治政府の旧身分制度廃止の総仕上げ
- 日露戦争後の財政再編
- 国債政策(新公債の消化促進)
といった当時の大きな政策転換がありました。


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