(1906年4月23日、都新聞)
新橋–神戸間を走る三等急行列車に、食堂車を連結することになり、これは一般の旅客にとって喜ばしいことであった。
当局(鉄道管理側)は、当初この三等食堂車での飲食物販売を、これまで全線で弁当や飲食物を売ってきた「飲食物販売業者」たちに請け負わせる取り決めであった。そのため、販売業者の組合(圏隊組合)の組合長である大阪の某氏が出願したところ、まずはこの人物へ認可を与えた。
ところが、どうしたわけか、その後まもなく、この人物は組合長としての資格を取り上げられ、組合を代表する立場ではなく、“一個人”として食堂車の飲食物販売一切について許可を受けた、という噂が流れている。
さらに、一・二等車の食堂請負人を決める際には、正式な競争入札を行い、最も高い料金を提示した者に許可を与えていた。それにもかかわらず、三等食堂車については従来の規則に従わず、新しい特別な例を設けて、競争入札を行わずに特定の一個人に認可を与えたのである。
この経緯には、また例の 卑劣な手段(不正行為・袖の下) が働いたのではないかと、現在、この組合の内部では大騒ぎになっているという。
◾️ 三等急行に食堂車が付くのは画期的
明治30〜40年代、日本の鉄道は急速に発展し、食堂車の設置は「欧米型の近代的サービス」として注目されていました。
当時:
・一等・二等車にはすでに食堂車がある
・三等車(庶民向け)にはまだ無かった
今回「三等急行」に導入されること自体が大ニュースでした。
◾️ 食堂車は鉄道省直営ではなく請負業者が運営
当時の鉄道の食堂車は、国が運営するのではなく、外部業者に業務を丸ごと請け負わせる方式でした。
・飲食物の販売権
・調理・販売の人員
・列車内の飲料・弁当の独占販売権
これらは非常に大きな「利権」で、駅弁業者や売り子組織の間で激しい争奪戦があったのです。このため、食堂車の請負資格はしばしば金になる職権として問題化しました。
◾️ 疑惑:三等食堂車だけ“入札なしで一個人へ”=不正の匂い
記事が伝える不審点:
・本来は組合が一括して請負う予定だった
・組合長がその代表として出願 → 一度は認可
・ところがすぐに組合長資格が剥奪
・同じ人物が「組合代表」ではなく「個人」として再認可
・一・二等では公平な競争入札が行われた
・三等だけ入札をしない特別扱い
・裏に「卑劣な手段(賄賂・癒着)」があったのでは?と噂
つまり、三等食堂車の販売権をめぐり、鉄道官僚と業者の間で不正な取引があったのではないかと新聞は匂わせているわけです。
◾️ 当時の世相:汚職・利権スキャンダルが多発
日露戦争(1904–05)後の日本では、戦時特需の影響もあって
・官僚の汚職
・鉄道関連の利権
・軍事物資調達での不正
などが社会問題化していました。
新聞はこうした不正を鋭く追及し、「臭い話」「怪聞」 という刺激的な言葉を使って読者の関心を引いています。
◾️ 「圏隊組合」とは何か?
記事に出てくる「圏隊組合」は、駅弁売り・列車売り子などの飲食販売業者の組織を指します。
当時の車内販売は、
・模範売店
・諸駅弁業者
・売子組合
などが複雑に絡み、鉄道省との関係でたびたび摩擦が起きていました。そのリーダーである組合長の資格が突然剥奪されたことは、業者間に大きな混乱を生んだと考えられます。
■ まとめ
この記事は、「三等食堂車の販売権をめぐる怪しい人事と、不透明な許可手続きが騒動になっている」というスキャンダル報道です。
三等車の食堂車導入は本来喜ばしい出来事でしたが、利権争いと官僚の不正疑惑によって社会問題化している様子がうかがえます。


コメント