〔明治38年10月1日、中外商業新聞〕
「神の国」日本から紙を輸出すること自体は、特に不思議なことではない。しかし最近、横浜の外国商館員の話によると、従来から欧米人に愛用されていた「天狗帖」が、このごろますます輸出額を増やし、その主要な輸出先はロンドンであるという。
ロンドンに入ったそれが、そこからどこへ送られているのかを探ってみると、大半はウィンザー宮殿へ運ばれ、そこで毎年莫大な量が使用されているとのことだ。用途はもちろん多岐にわたるが、特に柔らかく、手触りや肌触りがよいために、様々な場面で欠かせない生活必需品となっているらしい。
さらに、近く婚礼を行うドイツの皇室後宮でも、この天狗帖の使い心地が良いと聞き及んでいる。女性は男性に比べて、紙を使う量が二倍三倍にもなるといわれ、直接輸入しようと様々に計画しているとの噂もある。
やがては欧米の女性社会において、欠かせない日用品となり、日本が戦勝国として世界に示す「紙の力」が、ここでも大いに繁栄を示すことになるだろう。これはまことに喜ばしいことである。
この記事は、日本製の「天狗帖(てんぐじょう)」と呼ばれる高級和紙製品が、ヨーロッパ上流階級で愛用され、輸出が拡大していることを伝えています。
1. 「天狗帖」とは?
• 「天狗帖」は、江戸末期〜明治期に日本で作られた 高級和紙の小冊子・帳面類 を指します。
• 特に手触り・肌触りが非常に柔らかいため、実際には 化粧用紙・トイレットペーパーのように使われた と考えられています。
• 欧米では紙製品の質がまだ日本ほど高くなく、「柔らかく肌に優しい日本紙」は贅沢品として重宝されました。
2. ウィンザー宮殿と皇室需要
記事では、イギリス王室の居城である ウィンザー城で大量に使用されている と書かれています。これは単なる帳面用途ではなく、実生活での消耗品(特にトイレタリーや化粧関連) として重宝されていた可能性が高いです。
さらに、ドイツ皇室の女性たちの間でも評判となり、直接輸入の計画があると伝えています。
3. 社会的背景
• 日露戦争(1904〜1905)に勝利した日本 は、「先進的な工業製品を輸出する国」としてのイメージを確立し始めた時期でした。
• この「天狗帖輸出拡大」は、日本製品が単なる工芸品ではなく、欧米の日常生活に入り込んでいる ことを誇らしげに伝えています。
• 特に女性の消費文化に受け入れられたことを「戦勝国日本の紙の勢い」と重ね合わせ、国威発揚の文脈で描いています。
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