1907年08月22日 米国大統領のトラスト征伐 株式界は惨落

1907年

(1907〈明治40〉年8月22日『東京朝日新聞』、8月20日ニューヨーク発)
 ニューヨーク発の報道によると、株式市場関係者の間では、今回の株価暴落(恐慌)の原因は、アメリカ大統領がスタンダード石油会社に対して巨額の罰金を科したこと、さらに鉄道王エドワード・H・ハリマンをはじめとする大企業(トラスト)の不正を厳しく取り締まろうとしたことにある、との見方が広がっている。
 しかし政府は、大統領の政策が暴落の原因ではないと考えている。この問題について、陸軍長官ウィリアム・H・タフトは19日の演説で次のように述べた。
 「株式市場の関係者は、今回の株価暴落が、大統領によるスタンダード石油会社や鉄道会社、その他のトラストに対する強硬な政策の結果だと言っている。しかし、それは大きな誤りである。今回の恐慌は、金融市場が資金不足(金融逼迫)に陥ったことが原因である。
 大統領の政策は、一部の富豪が巨大な資本力を背景に横暴な行動をとることを防ぐためのものであり、大統領は国家元首として当然果たすべき職務を遂行しているにすぎない。」
 さらに、ウォール街では、財務省(大蔵省)が以前のように市場へ資金を供給しようとしているものの、まだ十分な効果は現れていないという。また、今年の農作物は今のところ不作ではないと報告されている。株価は2~3日前に最も大きく下落したが、まだ回復の兆しは見られない。
 なお、現時点では銀行家の破産はまだ報告されていない。

記事引用:https://dl.ndl.go.jp/pid/1920436/1/176

写真・図引用:https://www.loc.gov/item/2016870934/?utm_source=chatgpt.com

⚫︎ 1907年恐慌の前兆を伝える記事

この記事は、1907年恐慌(Panic of 1907)の初期段階を伝えるものです。

1907年秋、アメリカでは銀行や信託会社への信用不安から金融危機が発生し、株価が急落しました。これは19世紀末から20世紀初頭のアメリカで最も深刻な金融危機の一つとされています。

この記事は、その危機が本格化する約2か月前に、市場の不安が高まっていた様子を報じています。

⚫︎ 「トラスト征伐」とは

当時のアメリカでは、石油・鉄道・製鉄などの巨大企業が市場を独占していました。

こうした独占企業は「トラスト(Trust)」と呼ばれ、価格操作や競争排除が社会問題となっていました。

大統領セオドア・ルーズベルトは、

  • 独占企業の解体
  • 公正な競争の回復
  • 消費者保護

を掲げ、「トラスト・バスター(Trust Buster:トラスト退治屋)」として知られるようになります。

記事の「トラスト征伐」とは、この独占企業に対する反独占政策を指しています。

⚫︎ スタンダード石油会社への制裁

スタンダード・オイルは、ジョン・D・ロックフェラーが築いた巨大石油企業でした。

1907年、同社は違法な鉄道運賃の優遇措置などをめぐり、有罪判決と高額の罰金を受けました(その後、手続上の理由で覆されます)。

市場では、このような政府の強硬姿勢が投資家心理を悪化させたとの見方が広がりました。

⚫︎ ハリマンと鉄道王

記事に登場するハリマンとは、エドワード・ヘンリー・ハリマンのことです。

彼は当時最大級の鉄道王で、多くの鉄道会社を支配していました。

ルーズベルト政権は鉄道料金の規制や企業統制を強めており、ハリマンら大実業家との対立が注目されていました。

⚫︎ 実際の恐慌原因

記事では、タフト長官が「原因は金融逼迫であり、大統領政策ではない」と説明しています。

現代の経済史でも、1907年恐慌の主因は、

  • 信託会社への取り付け騒ぎ
  • 銀行の流動性不足
  • 投機の失敗
  • 金融制度の脆弱性

などが重なったことにあると考えられています。

一方で、反トラスト政策が投資家心理に一定の影響を与えたことは否定できず、当時もその評価をめぐって議論がありました。

この危機を教訓として、1913年には連邦準備制度(FRB)が創設されることになります。

⚫︎ まとめ

この記事は、1907年夏のアメリカ株式市場の混乱について、市場関係者と政府の見解を対比しながら報じています。

市場では、ルーズベルト大統領によるスタンダード・オイルや鉄道トラストへの厳しい取り締まりが株価暴落の原因とみられていました。

一方、政府は、金融市場の資金不足こそが真の原因であり、大統領は独占企業の横暴を是正するために当然の職務を果たしているだけだと反論しました。

結果として1907年恐慌は秋に深刻化し、アメリカ金融制度改革の契機となりました。本記事は、その危機が本格化する直前の市場心理や政治的論争を伝える貴重な史料です。

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