(1907年5月11日 官報)
(農商務省訓令第十一号・各道庁府県あて)
近年、韓国・関東州・樺太などの沿岸へ出漁する者が著しく増加し、また沖合漁業も大いに発達して、次第に遠方の海へ出漁する者が増えている。
しかしながら、その漁船は依然として従来の日本式船舶であるため、ひとたび風波に遭遇すると耐久性が弱く、船体が破損したり転覆したりして、勇敢な漁夫を失い、生産力を大きく損なうことが少なくない。特に遠海へ出るカツオ漁船、サンゴ採取船、延縄漁船などにおいて、この危険が多く見られる。
また寒冷地へ出漁する船では、甲板がなく、防寒具も不十分であるため、漁夫が凍傷で動けなくなり、生命や財産に大きな被害を受ける例も多い。長崎県・鹿児島県のカツオ船やサンゴ採取船、大連付近での漁船遭難などの惨事は、日本式漁船の構造の脆弱さと設備の不備に起因するものといえる。
よって以下に遠洋出漁者が注意すべき事項を示すので、各地においてこれに基づき関係者を指導し、遭難を未然に防止するよう努めるべきである。
1907年5月11日
農商務大臣 松岡康毅
(後略)
写真・図引用:https://yaizu-yamafuku.co.jp/katsuo-life/articles/8125/
⚫︎ 遠洋漁業の急拡大
この訓令の背景には、日露戦争後の日本の海洋進出の拡大があります。
日露戦争の結果、日本は:
- 韓国への影響力拡大
- 関東州の獲得
- 樺太の南半分を領有
など、北東アジアの海域へ進出しました。
その結果、漁業の活動範囲が一気に「遠洋化」したのです。
⚫︎ 技術の遅れと事故多発
しかし問題は、
- 船は旧来型(和船)
- 装備は未整備
- 安全対策が未発達
だったことです。
つまり、活動範囲だけ拡大し、技術が追いついていない状態でした。
そのため:
- 台風・高波による沈没
- 凍傷・寒冷被害
- 長距離航海のリスク
が急増します。
⚫︎ 国家による産業保護の始まり
この訓令は単なる注意喚起ではなく、国家が漁業の安全管理に介入し始めたことを意味します。
当時の政府(農商務省)は:
- 漁業=重要な食料供給源
- 漁業=外貨獲得・産業基盤
と認識していました。
⚫︎ 「和船から近代船へ」
この問題はやがて:
- エンジン付き船(動力船)
- 鋼船
- 甲板・防寒設備の整備
へとつながります。
→日本漁業の近代化の出発点の一つ
⚫︎ まとめ
- 遠洋漁業の急拡大により事故が増加
- 原因は旧式漁船と装備不足
- 特に遠海・寒冷地で被害が深刻
- 政府が安全対策を指導する段階へ移行
- 漁業の近代化(船・装備)の必要性が明確化
これは「海洋進出の拡大」と「技術的近代化の遅れ」のギャップを示す典型例といえます。

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