1906年05月13日 結婚信用調査所

1906年

引用:新聞集成明治編年史 第十三卷 P.88

(1906年5月13日 都新聞)
 京橋区南八丁堀三丁目八番地にあるこの調査所は、主として結婚しようとする男女双方の性格はもちろん、学問や技芸の程度、日頃の素行、さらには父母の資産状況や家系・血統の良し悪しに至るまで、身元を精密に調査することを目的としている。
 またあわせて、金銭の貸し借り商業取引における信用状態などについての調査業務も取り扱っている。
 この調査所は、長年警視庁に勤務していた人々が組織して設立したものであるという。

◾️ この記事は何を伝えているのか

 この記事は、「結婚調査」と「信用調査」を専門に行う民間の調査機関が東京に設立されたことを紹介しています。
 現代で言えば、
  ・結婚前の身元調査会社
  ・与信調査・信用調査会社
  ・興信所(こうしんじょ)の前身
にあたる存在です。

◾️ なぜ結婚に調査が必要とされたのか

 明治後期の日本では、
  ・結婚は「家」と「家」の結びつき
  ・個人よりも家格・家柄・資産が重視
  ・離婚は社会的ダメージが大きい
という状況でした。

 そのため、
  ・素行の悪さ
  ・借金問題
  ・出自や家系の問題
が後から判明すると、家の体面や財産に深刻な影響を及ぼしました。

 こうしたリスクを避けるため、第三者による事前調査への需要が高まっていたのです。

◾️ 「血統の良否」という表現の意味

 記事中の「血統の良否」は、
  ・華族・士族・平民といった身分意識の残存
  ・家系の来歴(犯罪者・破産者の有無など)
  ・遺伝的な病気への漠然とした懸念
を含んだ、当時特有の価値観を反映しています。

 現代の感覚では問題視される表現ですが、当時はごく一般的な結婚条件の一部でした。

◾️ 警視庁出身者が設立した意味

 設立者が「多年警視庁に奉職せる人々」とある点は重要です。
  ・警察勤務で得た人脈
  ・人物調査のノウハウ
  ・内偵・記録調査の経験
を活かし、民間ビジネスとして調査業を始めたことを示しています。

 これは、
  ・国家権力の知識・技術が民間へ流出
  ・近代都市東京における新サービス業の誕生
という側面も持ちます。

◾️ 興信所の成立と都市化

 この種の調査所は、のちに
  ・興信所
  ・探偵業
  ・信用調査会社
へと発展していきます。

 背景には、
  ・都市人口の急増
  ・人の移動が激しくなり「素性が分からない人」が増加
  ・商取引の拡大による信用リスクの増大
があります。

 つまりこの記事は、都市化・資本主義化が生んだ新たな職業と価値観を映しています。

◾️ 歴史的意義

 一見すると小さな広告・紹介記事ですが、
  ・結婚が「感情」だけでなく「契約・信用」として扱われていたこと
  ・プライバシーより家の名誉が優先された社会
  ・近代日本における「信用情報」の萌芽
を知るうえで、きわめて示唆的な史料です。

◾️ 総括

 この記事は、
  ・明治後期の結婚観
  ・都市社会における信用不安
  ・警察出身者による調査ビジネスの成立
を端的に伝えています。

 「身元を調べる」という行為が、近代日本で制度化・商品化され始めた瞬間を記録した記事と言えるでしょう。

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