(1906年3月4日・東京朝日新聞)
本日にも発表される予定である。その後、正式発表の段階で細部が多少変更される可能性はあるが、その大まかな内容は次のとおりである。
第一条
一般輸送の用途に供する鉄道は、すべて国家が所有するものとする。
第二条
今後5年間に買収を行うが、各鉄道の買収時期は政府が指定する。
第三条
買収日において、兼業に属する部分を除き、会社の現有する権利および義務は政府が引き継ぐ。
ただし、株主に関する権利義務や積立金勘定は除く。
第四条(買収価格の算定方法)
買収価格は以下の算式による。
1. 明治35年下半期〜明治38年上半期までの6期における建設費に対する営業利益の平均割合を、買収時点の建設費に乗じ、それを20倍した金額
2. 自己資金で購入した備品類は、その実費を時価に基づき公債証書面額に換算した額
※営業利益とは、営業収入から営業費、設備費、そして収益計算以外の利息支出を差し引いたものとする。
※平均利益率とは、上述期間における建設費総額に対する利益の総額の割合とする。
第五条
借入金は建設に用いたものに限り、時価に基づき公債証書面額に換算して買収価格から差し引く。(但書省略)
第六条
(省略)
第七条
開業後3年以上が経過していない鉄道路線は、建設費のみを基準として政府と価格協定を行う。
第八条
権利義務の承継または計算について会社側に異議がある場合には、審査委員を置き決定する。
第九条
(省略)
第十条
買収代金は、買収日から2年以内に、公債証書(券面額)によって支払う。
第十一条
買収日から公債証書の交付日まで、買収価格に対して年5%の利息を会社側に支払う。
第十二条
鉄道買収に必要な公債を発行する。
第十三条・第十四条
(省略)
第十五条
交付する公債の時価は、買収前6ヶ月間の5%利付公債の価格を基準とし、日本銀行の証明によって決定する。
(以下略)
◆ 時代背景
1905年の日露戦争後、日本政府は国家運営や軍事輸送体制の強化を図り、主要鉄道を国家管理下に置く政策を打ち出した。これが 鉄道国有法(1906年制定) である。その中心となったのは、西園寺公望内閣で、桂太郎前内閣期から計画されていた政策を継承したものである。
◆ 国有化を推進した主な目的
| カテゴリー | 目的内容 |
| 軍事・安全保障 | 戦時動員輸送の迅速化・統一指揮 |
| 経済政策 | 無秩序な鉄道敷設競争の抑制、財政の安定 |
| 効率化 | 運賃体系・ダイヤ・管理方式の統一 |
| 政治的背景 | 政商や財閥の影響力を弱める狙いも存在 |
実際、私鉄競争が激化し乱造気味であった上、戦略輸送の面では統制の欠如が問題視されていた。
◆ 買収対象となった主要会社(例)
• 日本鉄道
• 山陽鉄道
• 九州鉄道
• 北海道炭礦鉄道
• 関西鉄道
• 中央線建設会社(甲武鉄道 など)
※残ったのは地方鉄道・都市交通用私鉄(例:阪神、京阪、東武 など)。
◆ この法案の意義
• 日本の鉄道網を国家主導のインフラ体系として基礎づけた
• その後の大規模改良・電化・幹線整備の土台となった
• 現在の JR 体制に至る歴史の重要な転換点である


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