(1908(明治41)年2月25日、『東京二六新聞』)
⚫︎児童の遊戯場
東京市役所では、日本橋米沢町の旧両国広小路にある約千坪の空き地に、八千余円の経費をかけて新しい公園を設ける計画を立てている。その目的は、児童を中心として、彼らの集会や遊戯に適した設備を設けることにある。設計の概要は、周囲に常緑樹を植え、その外側を石造りの基礎を備えた鉄柵で囲み、園内の適当な場所に風雅な四阿屋を三軒建て、さらに適当な場所にブランコ、遊動円木、平行台などを備えるというものである。また、ベースボールやテニスなどの遊戯に適したコートを、その中央に設ける予定である。
⚫︎六十余万坪の公園
もともと東京市には、「公園」の名を冠する場所が多く、日比谷公園以下、二十九の公園があり、その総面積は六十三万余坪に達している。しかし、特に児童のために公開され、遊戯や集会に便利なものは、わずか二、三か所しかない。そのため不便が甚だしく、児童公園を設置する必要があると説く者も少なくない。
⚫︎三島博士の唱道
ついに三島医学博士も、児童の運動に供するための小公園の設備について、帝国教育会でその必要性を強く訴えたことがあった。しかし、公園の設備は東京市の財政では許されないばかりか、東京市の人口は次第に密集してきており、「何々公園」と名のつく場所も次第に取り払われ、今ではごくわずかな土地さえも残らなくなろうとしている。このような状況では、道路の狭い市内に住む児童は、普段、運動や遊戯をする場所がないことに苦しみ、やむを得ず屋内に閉じこもって地面を踏まないようになる。そのため、児童の体育上、非常に不都合であるという議論が、近ごろ教育者の一部から起こりつつある。
(以下略)
写真・図引用:https://www.tokyo-park.or.jp/Tokyopark150years/history/
◾️日本橋米沢町の児童公園計画
この記事は、東京市が日本橋米沢町の旧両国広小路付近に、児童を主要な利用者とする小公園を設置しようとしていた計画を伝えています。
当時の東京にはすでに多数の「公園」がありましたが、記事が問題としているのは、公園の総面積ではなく、子どもが安全に集まり、身体を動かして遊べる施設が非常に少ないことでした。
記事にブランコ、遊動円木、平行台、野球・テニス用コートなどが具体的に挙げられている点からも、単なる植栽中心の公園ではなく、運動・遊戯を目的とした近代的な児童施設を構想していたことが分かります。
◾️日比谷公園にはすでに児童遊園があった
日比谷公園は1903(明治36)年に開園し、その中には児童用の遊び場も設けられていました。国土交通省の都市公園史資料では、日比谷公園の児童用遊び場は、日本最初期の近代的な児童公園施設として位置づけられています。
ただし、こうした施設は東京市全体から見ればごく限られていました。記事自身も、二十九公園・六十三万余坪という数字を挙げながら、児童用に適した場所は「僅に二三あるのみ」としています。
◾️明治末期に高まった「小公園」の必要論
子どもの遊び場不足は、この時期から都市問題として意識されるようになります。
後年の研究によれば、明治末期には、都市の人口密集、道路交通の増加、子どもの健康や安全への関心を背景として、住宅地の近くに小規模な公園を設けるべきだという議論が強まっていました。1910(明治43)年には、内務省衛生局長の窪田静太郎が東京市区改正委員会に小公園設置を建議しています。
したがって、1908年のこの記事は、本格的な小公園政策が制度化される以前の、かなり早い段階の議論を伝える史料といえます。
◾️「弾丸黒子の地」とは
記事中の「弾丸黒子の地も剰す所なからん」は、「ほんのわずかな土地さえ残らなくなる」という意味です。
「弾丸黒子」は、弾き弓の小さな玉や、ほくろほどの土地という意味で、極めて狭い土地の比喩です。
現代文訳では意味が伝わるよう「ごくわずかな土地さえも残らなくなろうとしている」としました。
◾️ まとめ
この記事は、1908(明治41)年の東京で、子どものための専用公園を整備する必要性が社会問題として認識され始めていたことを示しています。
東京市にはすでに二十九の公園が存在していましたが、児童が自由に運動・遊戯できる場所はわずかでした。そのため、日本橋米沢町の約千坪の土地に、ブランコ、遊動円木、平行台、野球・テニス用コートなどを備えた新しい公園を造る計画が立てられています。
特に興味深いのは、公園整備が単なる娯楽政策ではなく、人口密集によって遊び場を失った都市児童の身体発育・健康問題として論じられている点です。
明治末期の東京が急速に都市化するなかで、「道路や建物だけでなく、子どもが身体を動かせる場所を都市の中に確保する必要がある」という、現代の都市公園政策につながる考え方がすでに生まれていたことを示す記事です。


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