(1906年10月16日、国民新聞)
ニューヨークのスタンダード・オイル会社が、今回、大規模な計画として、神奈川県糸崎ほかに石油タンク設備を設置することは、すでに石油業界ではよく知られているところであるが、これに付随する事業とも言うべき製缶・製箱工場についても、同様に大規模な計画が進められている。
先ごろ、アメリカ人の某氏が来日し、工場用地などを選定したとのことであり、スタンダード社のタンク設備が完成して操業を開始するのと同時に、この付帯事業も始まる見込みである。ただし、この付帯事業はスタンダード社そのものの計画ではないという。
そのため、近ごろスタンダード社のタンク事業開始にあたって、石油を入れるために古い缶や古い箱が使われるだろうと見込んで、空き缶や空き箱を買い占める者が現れ、これらの相場が日々高騰している。しかし、もしこの見込みだけを頼りに投機を行っている者がいるとすれば、それはまったく無謀な行為にすぎない、と業界関係者の一人は語っている。
この記事は、1906(明治39)年当時の日本におけるスタンダード・オイル社の進出と、それに伴う経済的波及効果を伝えたものです。
◾️ スタンダード・オイル社の日本進出
スタンダード・オイル社(ロックフェラー系)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて世界最大の石油企業でした。日本でも灯油需要の急増(照明・工業用)を背景に、
- 石油の安定供給
- 大規模タンクによる貯蔵・流通網の整備
を進めており、神奈川県沿岸部(糸崎など)は輸入・貯蔵拠点として重要視されていました。
◾️ 付帯産業としての「製缶・製箱」
石油流通には、
- 金属製の石油缶
- 木箱(輸送用)
が不可欠でした。そのため、石油タンク建設と並行して、缶や箱を製造する工場(製缶・製箱所)の設立計画が進められたのです。
ただし、記事が強調しているように、この製缶事業はスタンダード社の直営ではなく、周辺企業や関連業者による計画であった点が重要です。
◾️ 投機と相場高騰への警告
スタンダード社の事業拡大を当て込んで、
- 「石油タンクが始まれば古い缶や箱が大量に使われるだろう」
という憶測から、空き缶・空き箱を買い占める投機行動が発生し、価格が高騰しました。
これに対し、記事は業界関係者の言葉を借りて、
- そうした思惑買いは根拠が薄く、危険である
と冷静な警告を発しています。
◾️ 明治後期日本の特徴
この記事は、
- 外資企業の進出
- それに伴う関連産業の形成
- 情報不足の中で起こる投機的バブル
という、明治後期の資本主義経済が急速に成熟していく過程をよく示しています。特に、外国巨大企業の動向が国内市場心理に与える影響の大きさが読み取れます。

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